Essay ― モーリの独り言

5th 「シャフトについて」 

 

シャフトの寿命が尽きるときというのは、

ジョイント部分の摩耗による故障が大半

 

今回は、キューの「シャフト」についてお話しします。

 

いいシャフトとは何か――。

その答えは人によって若干違いますが、「白い」「木目の素性がいい」「しっかりとしている」の三拍子がそろったものを求めている方が多いのではないでしょうか。

特に白には、「清涼」「清潔」「新しい」というイメージもありますから、白いシャフトを使っているとそれだけで気持ちがいいと思います。


白いシャフトの素材は、木の外側です。

この部分は、早い話がまだ生きていて、温度や湿度の変化に応じて曲がりが出ることがあります。

ですから、シャフトを作る際には、曲がりが出ないようにしっかりと乾燥させてから使っているのです。


一方で、「芯材」といわれる木の内側は、少し色づいていて、白さという面では外側に劣ります。

でも、実が詰まっていますから、それ以上育つことはありません。

ですから、見た目としてはよくないと思うかもしれませんが、実は少し色づいているシャフトのほうが、芯材を使っているため、曲がりなどの狂いが起きにくいのです。


また、「シャフトは、いつまでも白いままでいることはない。ということは変化し続けている安定していないもの」と考えて、「それならば、これ以上汚れることがない『真っ黒なシャフト』のほうが安定しているはず」という方もいます。

それはそれで合理的な考え方だと思いますし、そこまで極端ではないにしても「キューは汚れてナンボ」と考える方も少なくないようです。


でも個人的には、シャフトが汚れていることを好ましくは思いませんので、新品の状態は保てないまでも、自分の許容範囲内の白さを保つように掃除をしています。


シャフトの掃除にサンドペーパーを使う方がいます。

でも、サンドペーパーでは木が削れてしまい、シャフトのコンディションも変化し、ひいては寿命もあっという間に縮まってしまいます。


シャフトの寿命が尽きるときというのは、保管が悪くて曲がることを除けば、ジョイント部分の摩耗による故障が大半です。

先角は、割れたとしても交換することができますから、ジョイント部分で摩耗やガタが起きない限りは、元よりシャフトは、かなり長持ちするものなのです。

それなのに、サンドペーパーを使って自分から寿命を縮めることはないと思います。


シャフトの掃除に使っているのは、消しゴムです。

カスが丸まるものとかいろいろな消しゴムを試してみましたが、砂消しゴムを除いてごく普通のものならどれでも大丈夫です。

木を削ることはないし、チョークの粉や手垢が取れますからオススメです。

 

ただし、消しゴムのカスでビリヤード場を汚さないようにご注意ください。


 

上級者は、撞いたときの音で、

いつもと違う撞き方をしたかどうかがわかる

 

白さを保ちたい理由は、「きれいなシャフトを使いたい」ということだけではありません。

上級者ともなれば頭のなかに膨大なプレー・イメージがインプットされているもので、「この配置はこうやって取る」というように、自然とその時々の映像(配置)に頭や体が反応してプレーしています。

「これはこの前の球と似た球だから、似た撞き方をすればいい」というようにです。

実際、毎回イチから取り方などを考えてプレーしていては、プロレベルの試合で勝つことはなかなか難しいと思います。


つまり裏を返せば、見た目の映像がいつも同じであれば、精度やアベレージも上がるということです。

もちろん配置は毎回違いますから、当然いつも同じ映像というわけにはいきません。

でも、構えたときの視界に手球とシャフト(キュー先)があるのは、いつも同じです。

そしてそのときに、ある程度同じ白さのシャフトが常に見えるか、あるいは青かったり黒かったりと日によって違う色のシャフトが見えるかでは、アベレージに差が出るのではないかと思います。


上級者は、撞いたときの音で、いつもと違う撞き方をしたかどうかがわかります。

 

そうした五感のインプットというのは大事で、それと同じ理由で常に自分なりの白さを保っているのです。

 

 

 ヨーロッパの古い神殿にある柱のように

「エンタシス」があることが特徴

 

テーパーにも人それぞれの好みが表れますが、基本的には売られているそのままのテーパーを信用して使うのがいいと思います。

ポケット・ビリヤードなら「ストレート・テーパー」。

キャロム・ビリヤードなら“神様”レイモンド・クールマンスが発案の「クールマンス・テーパー」の名残をとどめた中太りのテーパーです。

これらは長い間、キューメーカーとプロ選手が意見をかわしたり、テストしたりした末に生み出されたものですから間違いないと思います。


クールマンス・テーパーは、30年くらい前に流行ったテーパーです。

ヨーロッパの古い神殿にある柱のように「エンタシス(※)」があることが特徴といえます。

シャフトの中央部が太く、先端部からの力や衝撃に強いですから、ボールの端を撞いたときにもシャフトが変に曲がることなく、しっかりと撞くことができるのです。


クールマンス・テーパーが流行る前は、ボークラインやカードルといった細やかさを競うゲームが主流でしたので、当時の先角の径は細かい球を撞くために細く、11ミリぐらいでした。

先角が太いと、どこを撞いているのかわからなくなってしまうためです。

それに当時は、キューを2、3本の指で握って、手首を使って撞くプレイヤーが多かったですから、テーパーは今のポケット・ビリヤード用のシャフトのようなストレートだったのです。


その後、今のようにスリークッションがメインゲームになったのですが、それまでと同じく先角やテーパーが細いとスリークッションを撞くのには、パワーや硬さが足りません。

 

そこでクールマンスは、細い部分に肉づけしてエンタシスをもたせた、クールマンス・テーパーを考案したのだと思います。

 

 

50年後には、キューに合成素材やリサイクルが可能な素材を

使わざるを得なくなる

 

さて、積層タップのように、シャフトにも張り合わせたり人工物を組み入れたりして作られた、「ハイテクシャフト」というものがあります。

ハイテクシャフトの特徴は、反発力の強さです。

たとえるなら、棒高跳びの棒が竹からグラスファイバーなどに変わって大幅に記録が伸びたようなもので、パワーや回転力が増して楽にキューを効かせることができるようになりました。

そういう意味では進化した道具といえ、ヒット商品になっているのも頷けます。


ただ、弊社でも革という生ものを接着していますのでわかりますが、膨張率は物質ごとに異なります。

ですから、かなり精密に作られているとはいえ、樹脂などの人工物と木を完璧に張り合わせることは簡単ではないと思います。


これは、木と木を張り合わせるにしても同じです。

革と同様に、この世にまったく同じ木というのは存在しませんから、半永久的に張り合わせの間に隙間ができないとは、断言できないのではないかと思います。


張り合わせという考え方は素晴らしいと思いますし、性能もかなり高いです。

でも安定性という点では、素材が木では、生ものであるだけに極限まで高めるのは難しいと思います。

ですから素材は木ではなく、圧縮した紙や変化しにくく手に引っかかりにくい人工物を使うほうが、安定性・均一性が保てるのではないかと個人的には思います。


古来より人間は、木の温かみを感じながら生活してきました。

木や木目がない家に住むのには抵抗がありますし、それはキューに関しても同じです。

ハイテクといわれるようになっても尚、木を求め、使っています。


でもこれからは、今まで以上に森林を守っていかなければなりません。

ですから50年後には、キューに合成素材やリサイクルが可能な素材を使わざるを得なくなると思います。

「昔はシャフトは木でさ……」と懐かしみながら。


その点でいうと、今のハイテクシャフトは研究途上といえます。

本当の意味で完成するのはまだ先で、人工素材が一般でも普通に使われるその世界であれば、人工素材のハイテクシャフトもまた受け入れられるのではないかと思います。


 

※……上にいくにつれて細くなる円柱の中ほどにつけられたふくらみ。

   巨大建築物の柱にみられることが多く、

   法隆寺東院伽藍廻廊やパルテノン神殿が有名