Essay ― モーリの独り言

3rd 「プレーとタップの硬さについて」 

 

弾力の質や繊維の密度を加味して、

トータルバランスが良くなるように製作

 

今回は、ビリヤードの「プレー」「試合の勝率」「プレッシャー」とタップの「硬さ」の関係などについてお話しします。
 
タップの「硬い」「柔らかい」という言葉には、単に硬さだけでなく、固定観念や先入観が含まれていることが多いように思います。
「硬いタップはボールを捕まえにくい」「柔らかいタップはスリップしにくい」というようなものです。
 
でも、一口に「硬さ」といってもいろいろあって、たとえば「硬い」には、鉄のようにまったく弾力を感じないものがあれば、木のように少しだけ柔らかさが感じられるものもあります。
 「柔らかい」にしても、空気がいっぱい入ってフカフカしているものと、ネチャッとしたお餅のようなものもあります。
また、同じネチャッでも、パフッと力が抜けるような柔らかさと、ねっとりとした柔らかさでは、感触がまったく違います。
 
ですから、タップの硬さを表現するときには、何かしらのエッセンスを加えて表現したほうがよいと思います。
単に「僕は硬い(または柔らかい)タップが好き」というのではなく、「硬いけど『クッ』と食いつく」「柔らかいけど型くずれしない」「硬くても金属音がしない」「柔らかいのにつぶれていかない」というようにです。
 
タップの製作者という立場でもう少しいうと、タップ製作において弊社では、硬さのセッティングだけをして製作しているのではありません。
弾力の質や繊維の密度を加味して、トータルバランスが良くなるように考えて製作しています。
 
それもあって弊社では、タップの種類の表現を「ハード(H)」「ソフト(S)」から「クイック(Q)」「スロウ(S)」というレスポンス・スピード――タップがボールを捕えてから離すまでの速さ(時間)――に変更しました(中間のミディアム(M)もあります)。
ハードやソフトということは、あえていわなくても多くの方にご理解いただけることです。
ですからそれを省略し、硬さにレスポンス・スピードという要素を加えて、「ハード&クイック(またはソフト&スロウ)という性質があるタップ」ということにしたのです。

 

 

タップを少し硬めのものに変えるだけで、

すごく楽に引けるようになる

 

ここまでの話は、タップに限ったことではありません。
キューでいえば、たとえばシャフトのしなり具合は、テーパーによって変わります。
また、キューやタップが硬かったとしても、握り方を変えるだけで感触が違ってきます。
同じキューでも、軽く握ればますます硬く感じますし、強めにギューッと握ると感触が若干マイルドになるのです。
ですからキューにしても、硬さなどを単に「硬い」「柔らかい」という言葉だけで表現し切るのは難しいと思います。
 
こうしたことからしても、自分にマッチするキューを選ぶには、デザインだけをみるのではなく、自分の体格やストローク、プレースタイルなどを含めて総合的に考えるとよいのではないでしょうか。
たとえば、腕力が弱くてストロークも小さい方の場合、パワー不足を補うにはキュースピードを上げる必要が出てきます。
そのため、キューを選ぶ際には、キュースピードを上げやすいテーパーや重さのキューを選ぶのがよいと思います。
 
また、プロ選手はキューの重心の位置などをかなり細かく気にします。
ですから、自分と似た体格のプロ選手が使っているキューがどのような性能をもっているかを知ることは、キュー選びの一つの指標になるでしょう。
 
そして、デザインだけでなく、そうした性能も加味してキューを選んだときに初めて、そのキューにはどういう硬度や性質のあるタップを装着すべきかがみえてくると思います。
弊社が3種類のタップを製作しているのは、その段階でご自分に合ったものを選んでいただくためでもあるのです。
 
昔と違って今では、カスタムキューも購入しやすくなっています。
ですから、ゆくゆくは自分にピッタリのキューをオーダーメイドし、それに見合ったタップを選ぶ――。
その道筋ができたときに、プレーと道具の関係もまた、より自然にマッチすることと思います。
 
漠然と好みだけで選んでいたところからもう少し深く、自分のプレーの精度を上げるにはどんな道具が必要なのかを考えてみてはいかがでしょうか。
いいプレーをするために「道具を選ぶ」ということです。
もちろん、いいプレーをするにはトレーニングも必要になります。
でも実際、道具をホンの少し変えるだけで、苦手なショットを克服できることもあるのです。
 
たとえば、「押し球はギュンと押せるけど、引き球はボケる」という場合、柔らかいタップを使っていることが多いです。
もちろん、柔らかいタップでも、長いストロークでキューを上手く出せば、きれいに引く(ボールにバックスピンをかけて手前に戻す)ことができます。
でも、タップを少し硬めのものに変えると、それだけですごく楽に引けるようになるのです。

 

 

統計的に、若干硬めのタップを

使っている方のほうが勝率が高い

 

試合の勝率とタップの硬さにも関係があります。

日本のスリークッション・シーンに関していうと、柔らかいタップを使っている方よりも若干硬めのタップを使っている方のほうが、統計的にみて勝率が高いのです。

また、世界的にも、チャンピオンになるようなプレイヤーがフカフカのタップを使っているという話はあまり聞いたことがありません。

 

この理由は、テーブル・コンディションにあります。

トーナメント序盤戦のテーブル・コンディションは、ドライで軽いのですが、そうした状態では、柔らかめのタップのほうが安心感があります。

ショットした瞬間にボールがスリップして逃げていくようなところで、柔らかめのタップはクイッと呼び戻すような動きをするためです。

 

ところが、テーブル・コンディションはトーナメントが進むにつれて、ウエットで重たくなっていきます。

そうなった場合に柔らかいタップでは、ヒネリを効かせたときにボールを引っ張りすぎるミスが起きてきます。

緊張して若干ストロークが弱かったときには余計にです。

 

つまり、柔らかいタップは、朝一番のツルツルしたドライで軽いコンディションのときには気持ちよく使えるのですが、勝ち進んでいくと難しい操作を要求されるのです。

逆に硬めのタップは、トーナメントの佳境、つまりウエットで重いコンディションになったときにいい状態になります。

ですから統計的に、若干硬めのタップを使っている方のほうが、トーナメントにおいては勝率が高いのです。

 

かくいう毛利自身も、かつては柔らかめのタップが好きな若手プレイヤーでした。

ですが、経験を積むにつれて試合前には、タップを薄くして若干硬めにするようになりました。

厚すぎたり柔らかすぎたりするタップでは、本番の試合、特に緊張する場面で不安になるとわかったためです。

ですからこのことは、身をもって知っていることでもあるのですが、道具にはそれだけ結果を左右してしまう面があるのです。

 

 

道具のちょっとした変化によって

プレーにも違いが出てくる

 

タップの硬さによってプレッシャーを克服できることもあります。

自分に合わない硬さのタップを使っていると、知らず知らずのうちにボールコントロールを難しくしてしまっている可能性があるのです。

 

透明な気持ちでボールに迎えていないといえばいいのでしょうか。

タップの嫌な感触によってどこか違和感を感じながらプレーしているものですから、本来なら怖がる必要がないショットまで怖がってしまうことがあるのです。

 

プロ選手は、道具の感触などから「このキューだと、こういうショットが難しいかな」「あの手のショットはこんな風に撞けるかも」ということを想像することができます。

アマチュアの方がその域に達するには年月がかかりますが、ここまでの話にあったように、道具のちょっとした変化によってプレーにも違いが出てきます。

 

このことをいつも頭の中に入れておき、上級者のプレーを見るときには、プレーレベルやトレーニング量が違うということだけでなく、自分とその人とでは道具そのものにも違いがあるかもしれないと思って見てみてはいかがでしょうか。

それによって道具の見方が変わるでしょうし、何より、ビリヤードがもっと面白くなると思います。